東京地方裁判所 昭和35年(ワ)8888号 判決 1963年9月21日
判 決
東京都港区芝田村町六丁目七番地の四
原告
米田物産株式会社
右代表者代表取締役
米田利吉
右訴訟代理人弁護士
梶谷丈夫
落合長治
板井一瓏
大阪市西区立売堀北通二丁目十二番地
被告
日建化工株式会社
右代表者代表取締役
浜口札一
大阪府枚岡市出雲井町三百三十番地の一
被告
日建産業株式会社
右代表者代表取締役
浜口札一
大阪市阿倍野区北畠東一丁目百十一番地
被告
浜口礼一
右被告三名訴訟代理人弁護士
坂井宗十郎
西村登
右当事者間の昭和三五年(ワ)第八、八八八号実用新案権侵害行為禁止等請求事件および昭和三七年(ワ)第二、二五三号実用新案権侵害損害賠償請求事件について、当裁判所は、併合審理のうえ、次のとおり判決する。
主文
一 被告日建化工株式会社は、別紙第二目録、第三目録および第四目録記載の各物件を、業として、製造し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。
二 被告日建産業株式会社は、右各物件を、業として、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。
三 被告日建化工株式会社および被告日建産業株式会社は、各自、その本店、営業所、工場において所有する右各物件(完成品)およびその半製品(前二項掲記の各物件の構成要件は備えているが、いまだ製品として完成の段階に達していないもの)を廃棄せよ。
四 被告日建化工株式会社および被告日建産業株式会社は、各自、原告に対し、金七十五万六千三百九十円およびこれに対する昭和三十六年十一月一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告のその余の請求は、棄却する。
六 訴訟費用中、原告と被告日建化工株式会社および被告日建産業株式会社との間に生じた部分はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を同被告らの連帯負担とし、原告と被告浜口礼一との間に生じた部分は、原告の負担とする。
七 この判決は、第四項にかぎり、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
(請求の趣旨)
一 原告訴訟代理人は、
「(一) 被告日建化工株式会社(以下「被告化工」という。)は、別紙第二目録から第五目録記載の各物件を、業として、製造し、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。
(二) 被告日建産業株式会社(以下「被告産業」という。)は、右各物件を、業として、譲渡し、貸し渡し、または、譲渡もしくは貸渡のために展示してはならない。
(三) 被告化工および被告産業は、各自、その本店、営業所、工場において所有する右各物件(完成品)、および、その半製品を廃棄せよ。
(四) 被告化工および被告産業は、原告に対し、各自、金千三百三十三万五千六百五十円およびこれに対する昭和三十六年十一月一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(五) 被告浜口礼一(以下「被告浜口」という。)は、原告に対し、金九百三十万円およびこれに対する昭和三十七年四月五日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
(六) 被告化工および被告産業は、原告に対し、各自、第六目録記載のとおりの謝罪広告を一回掲載せよ。
(七) 訴訟費用中、原告と被告化工および被告産業との間に生じた部分は同被告らの負担とし、原告と被告浜口との間に生じた部分は、同被告の負担とする。」との判決および第四、第五項につき仮執行の宣言を求めた。
(被告らの求めた裁判)
二 被告ら訴訟代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二 当事者の主張
(請求の原因等)
原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。
一 原告の有する権利
原告は、次の実用新案権の権利者である。
出願 昭和二十九年三月二日
公告 昭和三十年十月六日
登録 昭和三十一年二月十日(実用新案登録第四四〇三三号)
名称 缶
二 登録請求の範囲
本件実用新案の願書に添附した明細書の登録請求の範囲記載は、別紙第一目録のとおりである。
三 本件実用新案の要部等
(一) 本件実用新案は、
(1) 硬質ビニール製筒胴体の上下両端外表面に軟質ビニールテープを一体的に融着し、
(1) 右軟質ビニールテープの表面に金属製端板の周縁を巻き締めた、
という構造を、その要部とするものである。
(二) 本件実用新案は、右構造により、軟質ビニールにパツキングの役割をさせ、硬質ビニールには直接金属製端板を装着する場合に生ずる亀裂、湿気の侵入、両者の脱離の防止をするという作用効果をあげることを、その目的とするものである。
四 被告らの製品の構造
被告化工および被告産業が製造、販売等をした製品の構造は別紙第二目録から第五目録記載のとおりである。
なお、右第二目録記載の物件は、被告産業の有する実用新案登録第四八三一四三号の実施品であり、第三目録および第四目録記載の各物件は、同被告において有する昭和三十三年十二月五日出願、昭和三十五年九月十四日公告(昭和三十五年実用新案出願公告第二三二八八号)にかかる出願中の実用新案に基き製造されたものであり、第五目録記載の物件は同被告の有する昭和三十四年実用新案出願第四七七六二号の考案に基いて製造されたものである。
五 被告らの各製品と本件実用新案との比較
(一) 第二目録記載の物件(以下「第二物件」という。)について
(1) 第二物件は、
(イ) 硬質ビニール製筒胴体の上下両端外面に軟質ビニールテープの下部のみを融着し、
(ロ) 右筒胴体の両端に、水平に巻締周縁を突き出している金属製端板を嵌合し、巻締周縁で右軟質ビニールテープの突出部を直角に押し曲げ、ビニールテープと巻締周縁の重合部を一緒に渦巻状に巻き締めた、
という構造を有するものである。
(2) 第二物件は、右構造によつて、本件実用新案の目的とするところと同一の作用効果をあげることができる。
(3) 第二物件と本件実用新案とを対比すると、前者は、
(イ) 硬質ビニール製筒胴体の上下両端外表面に軟質ビニールテープを融着し、
(ロ) 右軟質ビニールテープの表面に金属端板の周縁を巻き締めた、
という構造を有し、後者の要部を構成する前記三の(一)の(1)、(2)の構造を具備しているものというべきところ、前者においては、右構造に、
(ハ) 軟質ビニールテープの上部を突出させておき、筒胴体に水平に巻締周縁を突出せる金属製端板を嵌合し、軟質ビニールテープの突出部を直角に押し曲げて一緒に渦巻状に巻き締めた、
という構造を附加しているにすぎないものであり、前者は、右(イ)(ロ)の構造によつて、後者の目的とするところと同一の作用効果をあげうるものであるから、前者は後者を利用するものであり、その技術的範囲に属する。
(二) 第三目録記載の物件(以下「第三物件」という。)について
(1) 第三物件は、構造上、
(イ) 硬質ビニール製筒胴体の上下両端に軟質ビニール製パツキングを一体的に融着したこと、
(ロ) 右パツキングを断面U字状に形成し、これを筒胴体に嵌合、内外上の三方から熔着し、その上を金属製端板の周縁により内外上の三面から挾着締めとしたこと、
(ハ) 金属製端板の外縁を二重に屈折させたこと、
(ニ) 右パツキングのU字連結部の外周上に膨出部と窪部を連成し、右二重屈折部をこの窪部に圧嵌したこと、
という特徴を有する。
(2) 第三物件は、右特徴をなす構造により、本件実用新案の目的とするところと同一の作用効果をあげることができる。
(3) 第三物件と本件実用新案権とを対比すると、前者は、
(イ) 硬質ビニール製筒胴体の上下両端外表面に軟質ビニール製パツキングを一体的に融着(軟質ビニールにおいては熔着は融着に同じである。)したこと、
(ロ) 右軟質ビニールに金属製端板の周縁を巻き締めたこと、という構造を有し、後者の要部を構成する前記三の(一)の(1)、(2)の構造を具備し、これにより後者と同一の作用効果をあげうるものであるところ、前者においては、右構造のほか、
(ハ) 軟質ビニールパツキングを断面U字状に形成し、これを筒胴体に内外上の三面から嵌合融着し、その上を金属製端板の周縁により内外上三面から挾着締めとしたこと、
(ニ) 金属製端板の外縁を二重に屈折させたこと、
(ホ) 右パツキングのU字連結部の外周上の膨出部と窪部を連成し、右二重屈折部をこの窪部に圧嵌したこと、
という点において、後者と異る構造を有しているが、右(ハ)の点については、昭和十九年六月二十日実用新案登録第三四五五九五号名称防湿容器により、容器製造業者間に公知であるばかりでなく、本件実用新案の公報中にも「前記端板(2)(3)の内面にはビニール層を設ける場合あり」と記載されており、右ビニール層は技術上、当然軟質ビニール層を意味し、これを設けた場合は、巻締操作時の発熱および圧力による筒胴体との間に融着を生じ、右(ハ)と同一の状態を生ずべきことからみても、新規な考案とはいえず、また、右(二)についても、前記防湿容器の実用新案公報に明示されているものであり、容器製造業者の間では公知の方法である。さらに、右(ホ)については軟質ビニールパツキングに予め膨出部と窪部を設けておかなくても、金属製端板をこれに巻き締めるときの圧力および発熱によつて、軟質ビニールは軟化変形して窪部を生じ、缶が出来上つたときは、第三物件と同一の状態になるものであり、右(二)のように、予め膨出部と窪部を形成しておくことは、何ら特段の効果を有するものではなく、生産能力を低下させ、単価を高めることとなるにすぎないから、結局、右(ハ)(ニ)(ホ)の点を有することにより、前者は何ら新規な考案を含むものではないとみるべきであるから、前者は後者に抵融するものであるが、仮に、前者が右(ハ)(ニ)(ホ)の構造を有することにより、そこに何らかの考案が認められるとしても、前記のように、後者の要部を構成する構造を備えているものであるから、前者の考案を利用するものであり、その技術的範囲に属する。
(三) 第四目録記載の物件(以下「第四物件」という。)について。
(1) 第四物件は、構造上、第三物件の有する前記(二)の(1)の(イ)から(ニ)と同一の特徴を有するほか、
(ホ) 硬質ビニール製筒胴体の外側に軟質ビニール板を重ね合わせてあること、
という特徴を有する。
(2) 第四物件は、右特徴をなす構造により、本件実用新案の目的とするところと同一の作用効果をあげることができる。
(3) 第四物件と本件実用新案権とを対比すると、前者は、第三物件に右(1)の(ホ)の構造を附加したにすぎないものであるから、前記の(3)と同一の理由により、後者の技術的範囲に属する。
(四) 第五目録記載の物件(以下「第五物件」という。)について。
(1) 第五物件は、構造上、
(イ) 硬質ビニール製筒胴体の外表面に軟質ビニール板を張り合わせたこと、
(ロ) 予め成型した断面L字型で長脚部と肉厚な短小嵌止部を有する軟質ビニール製パツキングを、筒胴体の内周面に長脚部、端部に短小嵌止部があたるように冠着したこと、
(ハ) 金属製端板の外周で右パツキングを筒胴体の内外周に沿つて、包囲締着したこと、
(ニ) 右端板の末端外縁を、嵌止部の下部の下端部および前記軟質ビニール板の表面にそれぞれ喰い込むように巻き締めたこと、
という特徴を有する。
(2) 第五物件は、右特徴をなす構造により、本件実用新案の目的とするところと同一の作用効果をあげることができる。
(3) 第五物件と本件実用新案権とを対比すると、前者は、
(イ) 硬質ビニール製筒胴体の上下両端外表面に軟質ビニール製パツキングをつけ、筒胴体の外表面に軟質ビニール板を張り合わせたこと、
(ロ) 金属製端板の末端外縁をパツキング嵌止部の下端部および軟質ビニール板の表面にそれぞれ巻き締めたこと、
という構造を有する点で、後者の要部を構成する前記三の(1)、(2)の構造を具備し、これにより、後者の目的とする前記作用効果と同一の作用効果をあげうるものである。すなわち、右(イ)における軟質ビニール製パツキングは、当然筒胴体に固着されているとみるべきこと、および、後者においては軟質ビニールテープの巾および厚さに何らの限定もなく、この軟質ビニールの巾を狭くすることも、また広くして筒胴体一面を被覆することもさらに両者を併合することも、その技術的範囲に含まれると解すべきこと、ならびに、前者における前記作用効果は、右軟質ビニール製パツキングと前記(イ)における軟質ビニール板とに、同(ロ)におけるように、金属製端板を巻き締めたことによる全体としての構造から生ずるものであることからみて、前記(イ)(ロ)の構造が、後者における三の(一)の(1)(2)の構造に該当することは明らかである。しかして、前者は、
(ハ) 予め成型したL字型パツキングを前記(1)の(ロ)のとおり冠着したこと、
(ニ) 金属製端板の外周で右パツキングを筒胴体の内外周に沿つて包囲締着したこと、
の二点において、後者にない構造を有しているけれども、右(ハ)は、前記のとおり、公知であるU字型パツキングをL字型にしただけで、その間何らの独創性、新規性があるものではなく、また、(二)についても、公知の方法によつたものであるから、右(ハ)(ニ)の構造により、前者が新たな考案を構成することもないから、前者は後者に抵触する。
六 差止請求
(一) 被告化工は、次のとおり各物件を製造し、これを被告産業に売り渡した。
(1) 昭和三十二年十月末頃より同三十三年十一月末頃まで第二物件。
(2) 同三十三年十二月初より同三十四年五月末頃まで第三物件および第四物件。
(3) 同三十四年六月初より現在まで第五物件。
(二) 被告産業は、右各日時頃、右各物件を広く一般に販売した。
(三) 右のように、同被告らは、現在第五物件につき、その製造、販売等請求の趣旨第一、二項記載の侵害行為をしており、また、第二物件から第四物件については現在製造、販売をしていないが、原告から仮処分申請があつたため中止した等の事情もあつて、製造、販売等前記侵害行為を再開する虞があり、さらに、同被告らは、その本店、営業所、工場において、右侵害行為の組成物件である右各物件(完成品)および、その半製品(完成品と同様の構成要件を具備しているが、いまだ製品として完成の段階に達していないもの)を所持所有しているので、請求の趣旨第一項から第三項のとおりの差止および廃棄を請求する。
七 損害賠償の請求
(一) 被告らの責任
被告浜口は、第二物件から第五物件の製造、販売が本件実用新案権を侵害するものであることを知りながら、または、過失によりこれを知らないで、被告化工および被告産業における前記各物件の製造、販売をして、本件実用新案権を侵害し、原告に損害をこうむらせたので、右損害を賠償すべき義務があるが、被告浜口の右不法行為は、被告化工および被告産業の代表取締役として、その職務を行うについてされたものであるから、同被告らもまた、原告のこうむつた前記損害を賠償すべき責任がある。
仮に被告浜口における右不法行為責任が認められないとしても、同被告は取締役として職務を行うにつき、故意または重大な過失があつたものであるから、第三者である原告に対して、右損害を賠償すべき責任がある。
(二) 賠償の額
(1) 被告らが製造、販売した右各物件の数量は、
(イ) 昭和三十二年十一月から同三十三年十一月まで合計二十八万三千五百六十五個、
(ロ) 同年十二月から毎月三万個以上、昭和三十六年十月まで三十五か月合計百五万個以上、総計百三十三万三千五百六十五個以上である。
(2) よつて、各被告に対し、次の損害額について賠償を求める。すなわち、
(イ) 被告化工および被告産業における前記侵害品の製造、販売がなかつたならば、同数量の原告製品(本件実用新案の実施品)が売れた筈であるところ、原告製品の販売価格は、一個平均金八十円、生産費は金七十円、純利益は金十円であるから、原告は、同被告らの製造、販売した百三十三万三千五百六十五個分に相当する合計金千三百三十三万五千六百五十円の得べかりし利益を失い、同額の損害をこうむつたことになるので、同被告らに対し、各自右損害金、および、これに対する本件不法行為の後である昭和三十六年十一月一日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(ロ) 仮に、右主張が理由がないとしても、本件実用新案の実施により原告が通常受くべき実施料の額は一個平均金三円三十三銭であるから、前記百三十三万三千五百六十五個分合計金四百四十四万五千二百十六円を、原告の受けた損害として、第二次的に、同被告らに対し、各自、右金員およびこれに対する前記(イ)に同じ遅延損害金の支払いを求める。
(ハ) 被告浜口に対しては、前記損害のうち、昭和三十四年四月一日から昭和三十六年十月末日までの前記製造、販売により原告会社が販売しえなかつたことによる得べかりし利益の喪失としての九十三万分合計金九百三十万円の損害金、および、これに対する不法行為の後である昭和三十七年四月五日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、仮に、右請求が理由がないとしても、右期間中に原告の通常受くべき前記実施料の額、九十三万個分合計金三百十万円を原告の受けた損害として、第二次的に、同被告に対し、右金員およびこれに対する前記遅延損害金の支払いを求める。
八 謝罪広告の請求
被告化工および被告産業は、前記のとおり、原告の有する本件実用新案権を侵害することを知り、または、当然知りうべかりし状態にあつたにかかわらず、不注意によりこれを知らずに、共同して、昭和三十二年十月以降現在まで第二物件から第五物件の製造、販売等をしたが、その売込に当り、原告が何らの権利もないのにビニール容器を製造、販売していると宣伝し、また、原告の製品は毀損し易い粗悪品で容器として使用に耐えないものであり、しかも値段が高いなどとして、原告を誹謗した。原告は、昭和三十一年春頃から、わが国において初めて、本件実用新案に基くビニール容器の製造、販売を開始し、以来その宣伝に努めて来たもので、当時、次第に菓子、食料品業界においてその効用が認められ、広くこれが採用購入される情勢となつていたところ、同被告らの前記行為のため、著しく業務上の信用を害されたので、右信用を回復するため被告らに対し、各自、請求の趣旨第六項記載のとおりの謝罪広告をすることを求める。
九 被告の抗弁について。
被告主張の権利乱用に関する抗弁事実は、すべて否認する。
(答弁等)
被告ら訴訟代理人は、答弁等として次のとおり述べた。
一、請求原因一から四の事実は、いずれも認める。なお、右四の事実のうち、第五物件に関する実用新案は、昭和三十五年九月十九日の公告を経て、昭和三十七年一月八日実用新案登録第五六〇、八七四号として登録された。
二、同五については、
(一) 同五の(一)のうち、
(1) 同(一)の(1)の点は認める。
(2) 同(一)の(2)点は否認する。第二物件は、巻締部が部厚強化されているため、堅牢性とパツキングの効果(亀裂、湿気の侵入、脱離の防止)は、本件実用新案より数段優つている。
(3) 同(一)の(3)のうち、第二物件が同(3)の(イ)から(ハ)の構造を有する点は認めるが、その余は否認する。
(二) 同五の(二)のうち、
(1) 同の(二)の(1)点は認める。
(2) 同(二)の(2)の点は否認する。第三物件は、次の点で本件実用新案と異る作用効果を有する。
(イ) 金属性端板と硬質ビニール製筒胴体とが、内外上部いずれの面でも直接に接触しないため、各種のショツクに対し第三物件のU字状パツキングは、本件実用新案新築のビニールテープに比し、さらに確実な緩衝体となつている。
(ロ) 膨出部と屈折部を形成したことにより、端板の屈折部は窪部内に深く嵌着されて、完全に離脱を防止する。とくに角罐の場合に、この効果が大きい。
(3) 同(二)の(3)のうち、同(3)の(ハ)(ニ)(ホ)の点で第三物件が本件実用新案と異つていること、原告主張の実用新案登録第三四五五九五号が存在すること、および本件実用新案の公報中に原告主張のとおりの記載があることは認めるが、その余はすべて否認する。
同(二)の(3)に関して、被告は次のとおり主張する。
(イ) 第三物件は、硬質ビニール製筒胴体の外表面のみでなくU字状のバツキングを内外上から融着しているものである。なお、本件実用新案は軟質ビニールテープを使用するもののみに関するもので、ビニール製パツキングすべてを含むものではない。
(ロ) 原告主張の前記実用新案のものは、液体状のものを充填糊化したものであるため、その塗着層はきわめて薄く、全体として不正整な弓状となつているものであり、第三物件のように、厚いビニールで予め整型された強靱かつ均整のとれたパツキングとは異り、また本件実用新案の公報中の前記記載については、仮に右記載中のビニールが軟質ビニールを意味するとしても、それはビニールテープの代りに設けるのではなく、端板全体に設けるように記載されてあること、および右記載に「また胴体面に適宜の色採模様の印刷を施すことあり」という文言が併記されていることからみれば、原告主張の前記記載は、主として容器内に薬品その他金属製端板を腐触させるものを入れた場合に、それによる腐触を避けるための処置を掲げた附加的な説明であり、U字状パツキングとは関連のないものであるから、これらをもつて第三物件におけるU字状パツキングの構造を公知のものとすることはできない。
(ハ) 膨出部と窪部が巻締時の圧力および発熱により自然に形成されるとの主張については、そのようなことは、本件実用新案公報のうちに何ら記載されていないばかりでなく、巻締操作に要する時間は二秒程度であり、発熱はないから軟質ビニールが軟化するには至らないこと、また軟質ビニールの融解点は百五十度ないし百六十度で、硬質ビニールの軟化点は六十五度ないし七十五度であることから、発熱によつて軟質ビニールが軟化するときには硬質ビニールは熔解してしまうので、発熱によつて軟化変形して窪部を生ずるということは実際上ありえないことおよび薄いテープであるから、圧力による変形することはないこと、からみて不合理であり、したがつて右のことを前提として、第三物件における請求原因五の(二)の(1)の(ニ)の構造に新規性がないとすることはできない。
(ニ) 第三物件は作用効果上だけでなく、その全体としての形状、組み合わせからみて、新規、独創かつ工業的価値があり、本件実用新案とは別個の新規な考案とみるべきものである。またテープを全然使用せず、予め成型されたU字状軟質ビニールを使用しているのであるから、本件実用新案を利用するものでもない。
(三) 同五の(三)のうち、(イ)の点は認めるが、その余は否認する。同五の(三)に対する被告らの主張は、前記(二)において述べたところと同一である。
(四) 同五の(四)のうち、
(1) 同(四)の(1)の点は認める。
(2) 同(四)の(2)の点は否認する。第五物件はL字状ビニールパツキングを筒胴体端部に内外上の三方面から挾着させ、かつ軟質ビニール板を筒胴体の外表面に張つたため、パツキングと筒胴体および軟質ビニール板がより完全に密着し、パツキング効果は、本件実用新案に比し、より確実となつている点ならびに、金属製端板の外縁を、右パツキング嵌止部および軟質ビニール板に喰い込ませたため、脱落を完全に防止できるようになつた点で、作用効果上、本件実用新案と異るものである。
(3) 同(五)の(3)うち、同(3)の(ハ)(ニ)の点において第五物件が本件実用新案と異つていることは認めるが、その余はすべて否認する。なお、硬質ビニール製筒胴体の外表面に軟質ビニール板を張り合わせた点でも、第五物件は実用新案と相違する。
同(五)の(3)に関して、被告は次のとおり主張する。すなわち
(イ) 第五物件におけるL字状パツキングは、内周面にあつて外表面になく、かつ、融着していないから第五物件は本件実用新案権の要部を構成する請求原因三の(一)の(1)の構造を欠くものである。なお、本件実用新案の公報によれば、軟質ビニールテープは扁平で硬質ビニール製筒胴体の外表面に融着されたのに対し、第五物件のパツキングは、予め断面L字状に成型されているので、テープとはいえず、また筒胴体の内周に嵌着しているのであるから、両者は全く異るものである。
(ロ) 第五物件は、パツキング嵌止部と軟質ビニール板に金属製端板の外縁が喰い込んでいるものであるから、単に軟質ビニールテープの表面を金属製端板の周縁で押えているにすぎない本件実用新案における請求原因三の(一)の(2)の構造とは異るものである。
(ハ) 第五物件は作用効果上だけではなく、その全体としての形状、組み合わせからみて、新規、独創かつ工業的価値があり、本件実用新案とは別個の新規な考案であるから、本件実用新案の技術的範囲に属するものではない。
三、同六の事実のうち、
(一) 同六の(一)の事実中昭和三十六年十月末日までの製造、販売の事実は認める。被告化工は同月三十一日ビニール罐製造に関する機械、器具を日建罐工業株式会社に譲渡し、同年十一月以降は製造、販売していない。なお、昭和三十五年七月以降は、被告化工から直接特約店に販売していた。
(二) 同六の(二)については、昭和三十五年六月まで大阪、名古屋方面にのみ販売したことは認めるが、その余は否認する。
(三) 同六の(三)の事実は否認する。
四、同七の事実のうち、
(一) 同七の(一)の点は否認する。
(二) 同七の(二)については、被告化工および被告産業が製造、販売した第二物件から第五物件の数量が、昭和三十二年十一月から昭和三十三年十一月まで合計二十八万三千五百六十五個、同年十二月から昭和三十四年五月まで合計九万四千六百三十個、同年六月以降毎月三万個であることは認めるが、その余はすべて否認する。右に関する被告らの主張は次のとおりである。すなわち、
(1) 原告の販売区域は主として東京方面であり、被告産業の販売区域は主として大阪方面であつたが、原告は東京方面の受注だけで手一杯で、大阪方面の注文にまで応ずることができなかつたものであり、しかも大阪方面における販売は被告産業が独自の努力により開拓したものであり、さらに、ビニール罐の製造、販売を業とするものは原被告らだけではなく、他に東京、大阪方面に数会社があるのであるから、被告産業が販売しなかつたとしても、同数の原告製品が販売できたとすることはできない。
(2) 被告化工および被告産業においては、前記製造、販売にあたり、技術上の問題については、本件実用新案権の考案者である藤岡五郎の指導を受け、かつ実用新案の権利関係については絶えず弁理士の意見を聞き、その判断に従つていたものであり、また第二物件から第五物件に関する実用新案についても、その登録ないしは公告がされていたものであるから、同被告らにおいて、右各物件の製造、販売が他の実用新案権の侵害とならないとの確信を持つに至つたのは当然であり、この点について同被告らに故意はもち論重大な過失もなかつたのであるが、仮に過失があるとしても重大な過失はなかつたのであるから、右事情は損害の額を定めるについて考慮さるべきものである。
(3) 被告浜口については、同被告はみずから前記各物件の製造販売をしたのではなく、被告化工および被告産業の機関として行動したにすぎないから、商法第二百六十六条ノ三によらなければ、右機関としての行為により第三者である原告に対し責任を負うべきいわれはないというべきところ被告浜口においても、被告化工および被告産業と同様の理由により、前記各物件の製造、販売が本件実用新案権の侵害となることを知らず、またその知らなかつたことについて過失はなかつたのであるから、損害賠償の責任を負うことはなく、また仮に過失があつたとしても、重大な過失はなかつたのであるから右事情は損害賠償の額を定めるについて参酌されるべきものがある。
五、同八の事実はすべて否認する。仮に原告が信用を毀損されたとしても、原告の販売区域は主として東京、次いで名古屋、大阪方面であり、被告産業の販売区域は主として大阪、次いで名古屋方面であるから、全国版で謝罪広告をする必要はない。しかも原告は昭和三十六年四月以降ビニール容器の製造、販売をしていないのであるから、この点からも謝罪広告の必要はない。
六、原告が以前から現在まで製造している容器は、本件実用新案の明細書の図面に表示されたものとは異り、被告産業の有する前記実用新案登録第四八三一四三号の技術的範囲に属する構造のものである。このように原告自身が被告産業の実用新案権を侵害しておりながら、被告化工および被告産業において右実用新案の実施品である第二物件および第三物件から第五物件の製造、販売することの禁止を求めることは、信義則に反し、権利の乱用として許されないところである。
七、なお本件実用新案は実施不能のものであるから、原告は本件実用新案権に基いて差止等の請求をすることはできない。
第三 証拠関係≪省略≫
理由
(争いのない事実)
一原告が、その主張のとおりの実用新案権の権利者であること、本件実用新案の願書に添附した明細書の登録請求の範囲の記載が別紙第一目録記載のとおりであること、被告化工および被告産業の製品が別紙第二目録から第五目録記載の構造を有するものであり、第二物件は被告産業の有する実用新案登録録第四八三一四三号の実施品、第三物件および第四物件は同被告の有する昭和三十三年十二月五日出願昭和三十五年九月十四日公告(昭和三十五年実用新案出願公告第二三二八八号)にかかる出願中の実用新案に基き製造されたものであること、および第五物件は同被告の有する昭和三十四年実用新案出願第四七七六二号の考案に基いて製造されたものであることは、本件当事者間に争いがない。
(本件実用新案権の要部等について)
二前記登録請求の範囲の記載、成立に争いのない甲第二号証、鑑定人(省略)の鑑定の結果、および、弁論の全趣旨を総合すれば、
(一) 本件実用新案は、
(1) 硬質ビニール板の上下両端外面に、軟質ビニールテープを固着して胴体とすること、
(2) その胴体の上下両端の軟質ビニールの外表面に金属製端板の周縁を巻き締め圧着したことという構造を、その要部としていること。
(二) これらの構造により、
(1) 軟質ビニールが巻締作業中に絶対にずれることがない。
(2) 端板と筒胴体が脱離しないように確実に巻締が行われるとともに、巻き締めた後に、軟質ビニールがパツキングの作用を呈し、絶対的に湿気の侵入を防止する、
という作用効果をあげうることが認められる。しかして、鑑定人(省略)の鑑定および証人(省略)の証言によれば、本件実用新案は、その明細書中に「全金属製のものに比し内容を透視出来有効なものである。」との記載があることから、「透明または少くとも半透明であること。」を必須要件とすべきものであるかのようであるが、前記登録請求の範囲の記載中に右透明等の点について何ら記載がないこと、前記甲第二号証によれば、透明であることによる効果に関する前記明細書中の記載は、前記構造による作用効果の記載の後に附加的に記載されているにすぎないと認められること、ならびに、透明の点を除いて硬質ビニールを胴体とし、軟質ビニールをパツキングとして缶を構成した前記構造の点だけでも新規な考案というに十分であると認められること(このことは、成立に争いのない甲第三号証および弁証の全趣旨により本件実用新案より後に出願されたことの明らかな実用新案第四八三一四三号が前記のように登録されていること等によつて、容易に推認される。)と対比して考えるとき、同人の鑑定人および証人としての前記見解は、にわかにこれを採用できないものといわざるをえず、他に前記認定を覆すに足る資料はない。
(第二物件から第四物件と本件実用新案権との比較)
三前記当事者間に争いのない第二物件から第四物件の構造および右物件が前記実用新案権等に基いて製造されたこと、前示本件実用新案権の要部をなす構造、および、それによる作用効果、いずれもその成立に争いのない甲第二号証から同第四号証、鑑定人(省略)の各鑑定の結果ならびに本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認定することができる。すなわち、
(一) 第二物件について。
(1) 第二物件は、構造上、
(イ) 硬質ビニール板の上下両端外表面に、軟質ビニールテープの下部のみを固着して胴体としたこと。
(ロ) 右筒胴体の両端に、水平に巻締周縁を突き出している金属製端板を嵌合し、巻締周縁で右軟質ビニールテープの突出部を直角に押し曲げ、ビニールテープと巻締周縁の重合部を一緒に渦巻状に右軟質ビニールテープの下部の外表面に巻き締め圧着したこと、
という特徴を有すること。
(2) 第二物件は、右(イ)のように、軟質ビニールテープの下部を固着し、その外表面に、(ロ)のように、金属製端板の周縁を巻き締め圧着したことにより、本件実用新案と同一の作用効果をあげうるものであるが、右(ロ)のように、二重巻締に類似した構造となつているために本件実用新案に比しパツキング作用がより確実であること。
(3) 第二物件と本件実用新案とを対比すると、前者は、
(イ) 硬質ビニール板の上下両端外表面に軟質ビニールテープを固着して胴体としたこと。
(ロ) 右固着した軟質ビニールテープの外表面に金属製端板の周縁を巻き締め圧着したこと
という点において、後者の要部をなす前記二の(一)の(1)および(2)の構造を具備しているものであり、右(イ)(ロ)の構造により本件実用新案の有する作用効果と同一の作用効果をあげうるものであること。なお、前記(2)の(イ)(ロ)の構造のうち右(3)の(イ)(ロ)に含まれない部分、すなわち、軟質ビニールテープの上部を固着しないで突出させたこと、および、この部分を金属製端板の周縁と一緒に巻き締めた構造は、それ自体、前記のようパツキング効果をより確実にする作用はあるけれども、右構造のために、前記の(3)の(イ)(ロ)の構造に基く作用効果が滅殺されることはないこと。
(二) 第三物件について。
(1) 第三物件は、構造上、
(イ) 硬質ビニール板の上下両端に、断面U字状に形成した軟質ビニール製パツキングを嵌合、内外上の三方から固着して胴体としたこと
(ロ) 右固着したU字状パツキングの上を、金属製端板の周縁により内外から挾着巻き締め圧着したこと
(ハ) 金属製端板の周縁を二重に屈折したこと
(ニ) 右U字状パツキングのU字連結部の外周側に膨出部と、その下方に窪部を形成し、右窪部に右二重屈折部を圧嵌したこと
という特徴を有すること。
(2) 第三物件は、右(イ)のように、U字状パツキングの一方の脚が硬質ビニール板の上下両端外表面に固着していること、および、右部分の外表面に金属製端板の周縁が巻き締め圧着されていることにより、本件実用新案と同一の作用効案をあげうるものであるが、U字状パツキングが硬質ビニール板の上下両端部に内外上の三方から固着してあり、これを金属製端板の周縁により内外から挾着巻き締めてあるため、本件実用新案に比し、パツキング効果はさらに確実であり、衝撃に対しても強いという作用効果があること。
(3) 第三物件と本件実用新案権とを対比すると、前者は、
(イ) 硬質ビニール板の上下両端外表面に軟質ビニール製U字状パツキングの一方の脚部を固着して胴体としたこと
(ロ) 右固着した軟質ビニール製U字状パツキングの脚部外表面に金属製端板の周縁を巻き締め圧着したこと
という点において、後者の要部をなす前記二の(一)の(1)および(2)の構造を具備しているものであり、右(イ)(ロ)の構造により、本件実用新案の有する作用効果と同一の作用効果をあげうるものであること。なお、前者の構造のうち右(イ)(ロ)以外の部分は、これにより、前記(2)記載のような作用効果をあげうるものであるが、右部分の構造があることにより、前記(イ)(ロ)の構造に基く作用効果が滅殺されるという関係はないこと。
(三) 第四物件について。
(1) 第四物件は、構造上、第三物件に関する前記(二)の(1)の(イ)から(二)の特徴を有するほか、(ホ)硬質ビニール製筒胴体の外側に軟質ビニール板を重ね合わせてあることという特徴を有すること。
(2) 第四物件は、右のように、U字状パツキングの一方の脚が硬質ビニール板に重ね合わせた軟質ビニール板の上下両端外表面に固着していること、および、右部分の外表面に金属製端板の周縁が巻き締め圧着されていることにより、本件実用新案と同一の作用効果をあげうるものであるが、そのほか、第三物件と同一の作用効果も有していること。
(3) 第四物件と本件実用新案権と対比すると、前者は、第三物件に関する前記(二)の(3)の(イ)(ロ)と同一の点で後者の要部を構成するすべての構造を具備し、右の構造により本件実用新案の有する作用効果と同一の作用効果をあげうるものであること。なお、前者の構造のうち、右(イ)(ロ)以外の部分は、これにより前記(2)のような作用効果をあげうるものであるが、前記(1)の(ホ)を含む右部分の構造があることにより、前記(イ)(ロ)の構造に基く作用効果が滅殺されることはないことを認定しうべく、右認定の事実によれば、第二物件、第三物件および第四物件は、いずれも、本件実用新案の技術的範囲に属するものといわなければならない。乙第三、第四号証および同第十一号証中右認定に反する部分は、前掲各資料と対比して、にわかに採用し難く、他に、これを左右するに足る証拠はない。なお、被告らは、第二物件から第四物件が、いずれも本件実用新案権の要部を構成する構造以外の構造を有することにより、本件実用新案の有しない新規な作用効果をあげうることを理由として、右各物件が新規な考案を構成する旨主張し、その立証に努めるが、右各物件が本件実用新案の要部を構成する構造を備え、それにより本件実用新案と同一の作用効果をあげるものであること前認定のとおりである以上、それらは、さらに、別の構造ないしは作用効果を有すると否とにかかわりなく、なお、本件実用新案の技術的範囲に属するものといわなければならないのであるから(ただ、その場合において、右各物件の構造がなお新たな考案を構成するものとされたときには、本件実用新案を利用するものとして、実用新案権等の権利が附与されることがありうるにすぎず、たとえ実用新案権が附与されたとしても、本件実用新案の権利者の実施許諾ないしは、これに代る裁定がなければ、これを実施することは許されないのであるという関係にあるにすぎない。)、被告らの右主張も立証も、特段の意味をもちえないことは、あえて多くの説明を要しないところであろう。
(第五物件と、本件実用新案権との比較)
四前記本件実用新案権の要部を構成する構造、当事者間に争いのない前記第五物件の構造、成立に争いのない乙第一号証証人(省略)の各証言(いずれも一部)ならびに鑑定人(省略)の各鑑定の結果(各証言および各鑑定の結果については、いずれも後記採用し難い部分を除く。)を総合すると、次の事実を認定することができる。すなわち、
(一) 第五物件は、構造上、
(1) 硬質ビニール板の外表面に薄い軟質ビニール板を張り合わせて筒胴体としたこと、
(2) 予め成型した断面L字型で長脚部と肉厚な短小嵌止部を有する軟質ビニール製パツキングを、筒胴体の内周面に長脚部、端部に短小嵌止部があたるように固着したこと
(3) 金属製端板の周縁で、右パツキングを筒胴体の内外周に沿つて包囲締着したこと、
(4) 右端板の周縁末端を嵌止部の下端部、および軟質ビニール被覆板の外表面にそれぞれ喰い込むように巻き締めたこと、
を特徴とすること。
(二) 第五物件は、右筒胴体の内側に固着されたL字型パツキングの長脚部とこれに締着された金属製端板の周縁部分との間およびL字型パツキングの嵌止部とこれに喰い込むように巻き締められた右端板の周縁末端との間で有効なパツキング効果をあげることができ、また、筒胴体に張り合わせた軟質ビニール板に右端板の周縁末端が喰い込むように巻き締められていることにより、右端板の筒胴体からの脱離を防止するという作用効果をあげることができること。
(三) 第五物件と本件実用新案権とを対比すると、両者は、硬質ビニール板の上下両端に軟質ビニール製パツキングを固着し筒胴体とした点では共通の構造を有しているが、前者は後者における「硬質ビニール板の外表面に固着した軟質ビニールテープ」および「その外表面に金属製端板の周縁を巻き締めた」構造を有しない点で、後者の要部を構成する前記二の(一)の(1)および(2)の構造を欠くものであること、
が認められる。
この点に関し、原告は、本件実用新案における軟質ビニールテープについては、その巾および厚さについて何らの限定もないことを根拠として、第五物件における硬質ビニール製筒胴体の外表面に重ね合わせた軟質ビニール板が右軟質ビニールテープに該当するものと主張するようであるが、右軟質ビニールテープが、前示のように、パツキングの作用をすることをも目的とするものである以上、少くともその厚さについては、パツキング作用するに足るだけの厚さを備えていることを要するものと解すべきであるところ、第五物件における右軟質ビニール板においては、これが、その程度の厚さを有することを認めるに足る証拠はなく、かえつて、前記乙第一号証および証人(省略)の証言ならびに第五物件であることについて争いのない検乙第三号証の一によれば、右軟質ビニール板は、硬質ビニール製筒胴体を補強し、これとの間にラベル等を挿入する等の目的のために設けられているものであり、パツキング作用をするに足る程度の厚さを有しているとはみられないことを推認することができ、しかも、前掲各証拠によれば、本件実用新案においては、前記軟質ビニールテープの外表面に金属製端板の周縁を巻き締め圧着しているのに対し、第五物件においては右軟質ビニール板の外表面に金属製端板の周縁末端を喰い込ませているにすぎず、仮に第五物件における右構造においても多少のパツキング効果があるとしても、本件実用新案における前記構造によるような有効なパツキング効果はないことが認められるから、右軟質ビニール板を本件実用新案における軟質ビニールテープに該当するものとすることは到底できないものといわざるをえない。また、原告は、L字型パツキングと軟質ビニール板の全体としての構造が、本件実用新案における軟質ビニールテープにあたる旨主張するが、L字型パツキングおよび軟質ビニール板において、前示のとおり、それぞれの作用効果を有し、その作用効果を合わせたものが、本件実用新案における軟質ビニールテープの作用効果と同一であるからといつて、そのことから、ただちに、L字型パツキングと軟質ビニール板との全体的構造が軟質ビニールテープの構造と同一であるとすることのできないことはいうまでもないところであり、他に、両者に関する前示構造の相違にもかかわらず、これを同一の構造とみるべき何らの理由もないから、右主張もまた採用することはできない。
しかして、前認定の事実によれば、第五物件は、本件実用新案の技術的範囲に属しないものというべきであり、証人(省略)の各証言、鑑定人(省略)各鑑定の結果ならびに甲第七号証中前認定に反する部分は、前掲各証拠と対比してにわかに採用し難く他に、これを覆すに足る資料はない。
(差止請求について)
五被告化工が、
(一) 昭和三十二年十月末頃より昭和三十三年十一月末頃まで第二物件を、
(二) 昭和三十三年十二月初より昭和三十四年五月末頃まで第三物件および第四物件を、
(三) 昭和三十四年六月初より昭和三十六年十月末日まで第五物件を、
それぞれ製造し、昭和三十五年六月まではこれを被告産業に販売したこと、および、被告産業が同月まで右各物件を大阪、名古屋方面に販売したことは、本件当事者間に争いなく、被告化工が同年七月から昭和三十六年十月末日まで第五物件を直接特約店に販売したことは被告らの自陳するところであるが、同被告らにおいて、右を超えて原告主張のように製造、販売したことについては、これを認めるに足る証拠がない。
次に、証人(省略)の各証言によれば、同被告らが、右のように、第二物件から第三、第四物件、第三、第四物件から第五物件へとその製品を変えて来たのは、原告から同被告らに対し、右第二物件の製造差止等の仮処分申請があり、後にその差止等の対象を第三、第四物件に変更し、同物件について仮処分決定があつた関係にもよるものであることが認められ、また、同被告ら代表者浜口礼一の本人尋問の結果によれば、被告化工は昭和三十六年十月に第五物件の製造をも中止し、その製造設備およびこれに対する権利ならびに営業先に対する権利等一切を日建缶工株式会社に譲渡し、現在、被告化工は営業を中止しており、被告産業は本来の営業目的である鉄製品の製造、販売等をしているものであるが、右会社に譲渡したのは第五物件に関する権利、設備等のみであり、第二物件から第五物件に関する権利等は現在も被告産業が有しているばかりでなく、右会社の株式の二分の一は、被告化工および被告産業の代表取締役である被告浜口が保有し、右会社の土地、建物は被告産業から賃借しているものであることが認められ、これに反する証拠はない。
しかして、当事者に争いのない前記第二物件から第四物件の過去における製造、販売の事実に、右認定の事情を合せ考えれば、被告化工および被告産業は、現在は第二物件から第四物件の製造、販売をしていないけれども、将来においては、その製造、販売等原告主張の侵害行為をする虞があるというべきであり、また、右過去における製造販売の事実から、同被告らが、原告主張のとおり、第二物件から第四物件の完成品および半製品(構成要件を備えているが製品としては、いまだ完成していないもの)を所持所有していることは推認するに難くないところ、第二物件から第四物件が本件実用新案の技術的範囲に属することは前判示のとおりであるから、本件実用新案権に基き、同被告らに対し右各物件等につき差止および廃棄を求める原告の請求は、第二物件から第四物件に関する限度でその理由があるとすべきものである。
しかしながら、第五物件については、本件実用新案の技術的範囲に属するとはいい難いこと前説示のとおりであるから、これに対する原告の請求は、その前提を欠くものとして、その余の点について判断を用いるまでもなく、失当といわなければならない。
(損害賠償の請求について)
六被告らの責任および賠償すべき額。
(一) 被告らの責任
(証拠―省略)によれば、被告浜口は、鋼管継手の製造、販売等を営業目的とする被告産業の代表取締役であつたが、昭和三十二年春頃、取引先である三菱商事株式会社大阪支社の職員から、藤岡五郎を紹介され、同人の考案にかかるというビニール缶の製造、販売を勧められたため、その製造、販売を決意し、同年十月、被告化工を設立し、みずからその代表取締役に就任し、その技術部門を右藤岡に担当させ、同月から、被告化工において第二物件を製造して被告産業に売り渡し、被告産業においてこれを需要者に売り渡すという事業を開始させるに至つたものであるが、右製造、販売を開始するにあつて、被告浜口は、第二物件の製造、販売が本件実用新案権その他の権利を侵害するかどうかについて特に調査することなく、その点は技術者である前記藤岡に一任していたものであること、昭和三十三年五月頃、被告化工らは、原告から右第二物件が本件実用新案権を侵害するものである旨の警告を受け、被告浜口においてもこれを了知し、第二物件に関する実用新案の公報中に、その考案が本件実用新案権を使用するものである旨の記載があることを知つたのであるが、前記藤岡および弁理士に相談したところ、第二物件は本件実用新案の技術的範囲に属しない旨の回答を得たので、そのまま、被告化工および被告産業における右物件の製造、販売を続行させたこと、その後、昭和三十三年夏頃、第二物件について、原告から被告化工らに対し、本件実用新案権に基く製造禁止等の仮処分申請があつたこともあつて、同年十月末、被告化工らにおける第二物件の製造、販売は中止したが、これに代えて、同年十一月からは第三物件および第四物件を製造、販売させることとしたこと、さらに、昭和三十四年五月、第三物件および第四物件に対する差止等の仮処分決定があつたことを機会として、右第三物件および第四物件の製造、販売をも中止し、それ以後は第五物件の製造、販売に代えた事実を認定しうべく、右認定を左右するに足る証拠はないところ、以上の事実に、前掲当事者に争いのない本件実用新案権登録の経過、および、前示第二物件から第四物件がいずれも本件実用新案の技術的範囲に属すること、を合せ考えれば、被告浜口は、第二物件の製造、販売開始当時、本件実用新案権の存在を知らなかつたものではあるが、この種物件の製造、販売に関与するものとして、その製造、販売が本件実用新案権その他の権利を侵害するかどうかについて、相当な注意を払つたものとはいい難く、また、原告から警告を受けて後は、本件実用新案権の存在を知つたものであるから、たとえ考案者である藤岡五郎および弁理士の意見を徴したとはいえ、それのみで注意義務を尽したものとすることはできず、さらに、第三物件および第四物件の製造、販売開始当時についても、同様本件実用新案権の存在を知つていたものであり、その製造、販売が侵害行為となることは同被告においてこれを知りうべきものであつたとしなければならない。しかるに、同被告は、被告化工および被告産業の代表取締役として、慢然右各物件の製造、販売が権利侵害となることはないと軽信して、同被告らにおける前記製造、販売を決定し、これを実行させたものであるから、被告浜口は、過失により原告の本件実用新案権を侵害したものとして、直接原告に対し、右製造、販売により生じた損害を賠償すべき責任を負担しなければならないものである。
被告らは、この点に関し、被告浜口の右行為が会社の機関としての行為であることを理由として、商法第二百六十六条ノ三の規定によらない限り、同被告に責任はない旨主張するが、右規定は、取締役の行為が直接第三者に対する不法行為等を構成しない場合でも、取締役において第三者に対し責任を負うことがあるべき旨を規定しているにすぎないものであることは、あえて説明を要しないところであり、本件のように、代表取締役の行為が直接第三者に対する不法行為を構成する場合に関するものではなく、他に、会社の機関としての行為であることのために、取締役個人の不法行為責任を否定すべき根拠は見当らないから、右主張は採用できない。
しかして、前記認定の事実によれば、被告浜口の前記行為が、被告化工および被告産業の代表取締役として、その職務を行うについてされたものであることは明らかであるから、被告化工および被告産業においても、各自、右行為によつて生じた結果について責任を負担すべきであり、その損害を賠償すべきものといわなければならない。
(二) 賠償すべき額
被告化工および被告産業において、
(1) 昭和三十二年十一月から昭和三十三年十一月まで第二物件を合計二十八万三千五百六十五個、
(2) 同年十二月から昭和三十四年五月まで第三物件および第四物件を合計九万四千六百三十個、それぞれ、製造、販売したことは、本件当事者間に争いがない。
しかしながら、同被告らにおいて、右数量を超えて製造、販売をしたことについては、証人(省略)の証言中には、これを肯定しうるかに見える部分もあるが、右証言部分は、単なる推測または伝聞にかかり、証人(省略)(第一回)の証言と対比して考えると、これのみをもつて、右事実を確認することはできず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
原告は、被告化工および被告産業における前記製造、販売がなかつたならば、原告において当然同数の製品を販売しえた旨主張する。しかして、証人(省略)の証言によれば、原告は、昭和三十三年初め頃、大阪において一か月二万個以上の製品を販売していたが、その後、注文が激減して一か月千ないし二千個程度しか売り上げがないことが認められるが、他方、証人(省略)の各証言によれば、大阪においてビニール缶の販売を開始し宣伝をしたのは被告産業が先であり、原告は、これに半年程遅れて大阪に進出したものであり、大阪においては、むしろ、被告産業の努力によつて開拓した市場に原告が進出して来たともいえる状況にあること、および、被告産業ら以外にも同種ビニール缶を製造、販売する会社は大阪、名古屋等に数軒あることが認められ、これに反する証拠はなく、右事実と、前判示の第五物件のように、本件実用新案に触れることのない同種ビニール缶も存在しうることとを合せ考えれば、仮に、被告産業らにおいて、第二物件から第四物件を前記のように製造、販売しなかつたとしても、これと同数の製品を原告が販売しえたであろうとは断定することはできず、さればといつて、原告におけるどの程度の数量の販売が被告産業らの製造、販売によつて妨害されたかということもこれを推認することはできない。しかも、右の点については、他にもこれを確認するに足る証拠はないから、結局、原告の前記主張およびそれを前提とする得べかりし利益の喪失による損害類の主張は、これを採用することができないものといわなければならない。
よつて、次に、原告主張の実施料相当額による損害額の主張について審案するに、成立に争いのない甲第十八号証によれば、被告浜口は、第二物件に関する考案である実用新案登録第四八三一四三号の権利に基く原告に対する損害賠償等請求の訴訟において、原告の製品であるビニール缶の価格を一個平均八十円、その生産費金七十円、純利益金十円と主張し、右実用新案権の実施料は一個について金二円を相当とする旨主張していることが認められるところ、右事実と前記甲第三号証により認められる右実用新案権の内容および前示本件実用新案権の内容、および本件口頭弁論趣旨とを合せ考えれば、本件実用新案権の実施により通常得ることのできる実施料の額は、少くとも一個につき金二円を下らないものとするのが相当であり、右判断を左右するに足る証拠はない。もつとも、成立に争いのない乙第十三号証によれば、原告は、被告浜口の提起した前記訴訟において、同被告の前記主張を否認していることが認められるが、右は原告における被告浜口の前記実用新案権侵害の事実および原告の販売数量ならびに原告の責任等を一括して否認しているにすぎないものであること前記甲第十八号証との対比上明らかであるから、このような事実のあつたことは、前記判断の妨げとなりうるものではない。
以上のとおりであるから、原告の受けた損害の額は、本件実用新案権の実施により通常得べき一個につき金二円、前記製造、販売数総計三十七万八千一百九十五個分合計七十五万六千三百九十円となるものというべきである。なお、被告らは、被告らに、本件侵害行為につき故意又は重大な過失はなかつたから、損害賠償額の決定について参酌さるべきである旨主張するが、本件において、被告ら主張のような事情を参酌すべき限りでないことは、明らかであろう(実用新案法第二十九条第二、第三項参照)。
しかして、第五物件が本件実用新案の技術的範囲に属しないこと前判示のとおりである以上、その製造、販売に基く損害賠償の請求が理由のないことはいうまでもないから、原告の被告化工および被告産業に対する損害賠償の請求は、同被告らに対し、各自、前記金七十五万六千三百九十円およびこれに対する不法行為の後である昭和三十六年十一月一日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余は失当とすべきものであり、また、被告浜口に対しては、原告は昭和三十四年四月一日以降の製造、販売による損害のみについて請求しているものであるところ、前記のとおり同年六月以降は第五物件の製造、販売が行われていたものであるから、同被告に対する請求は同年四、五月の二か月間の製造、販売による損害の賠償に限りその理由があるというべきであるけれども、右二か月間に製造、販売された数量については、これを確定すべき資料がないので、結局、同被告に対する請求は、損害額の立証がないことになり、すべてその理由がないものとせざるをえない。
(謝罪広告の請求について)
七被告浜口が、被告化工および被告産業の代表取締役として、その過失により第二物件から第四物件の製造、販売を実行させて本件実用新案権を侵害し、被告化工および被告産業においても右侵害の結果について責任を負うべきことは前示のとおりであるが、同被告らにおいて右各物件の売込に際し、原告の製品を誹謗したとの点については、証人(省略)の証言中には右事実をうかがわせるような部分があるけれども、それは伝聞であり、しかも具体性に欠け、証人(省略)の証言と対比して考えるとき、右(省略)証人の証言のみをもつて誹謗の具体的事実を確認することはできず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。
しかして、証人(省略)の証言によれば、原告は、従来防腐木材の販売等を業としていたものであるが、昭和三十一年五月頃から、本件実用新案に基き、業界に卒先して、ビニール缶の製造、販売の始め、主として東京方面で販売していたが、昭和三十三年初頃には大阪に進出していて、販売数も一か月七万個以上に上り、その三分の二を東京で、三分の一を大阪方面で販売していたものであるところ、その頃、被告産業らにおいて本件実用新案権を侵害して第二物件から第四物件を製造、販売したため、得意先において、原告が本件実用新案に基いてビニール缶を製造、販売していることに関する信用を失い、注文の取消、代金の不払い等の態度に出られる事例も生じ、さらに、右の事情等により、大阪方面にかける売上も激減したことが認められるが、他方、(証拠―省略)によれば、原告は、昭和三十六年三月頃まででビニール缶の製造、販売を中止し、右に関する工場設備一切を熊野製缶株式会社に譲渡したことが認められ、いずれも、これに反する証拠はない。しかして、以上の事実によれば、原告は、被告産業らにおける第二物件から第四物件の製造、販売により、当時、その業務上の信用を失い、ある程度の損害を受けたものとみられるのであるが、右製造、販売は前判示のように、昭和三十四年五月末までに行われたものであり、爾来すでに相当の日時が経過しており、しかも、原告は昭和三十六年四月以降はビニール缶の製造は一切行つていないのであるから、現在、被告化工および被告産業に対し、謝罪広告を命じたとしても、これによつて、すでにビニール缶の製造、販売の事業を廃し、全く異つた業種の営業を営んでいる原告の業務上の信用そのものに影響するところは、きわめて少いものというべく、本件差止および損害賠償の請求に加え、全国主要日刊新聞紙に謝罪広告の掲載を求める原告の請求は適当でなく、結局その理由がないものといわなければならない。
(権利乱用の抗弁について)
八被告らは、原告が被告産業の有する実用新案権を侵害していることを前提として、原告の被告らに対する差止請求が信義則に反し、あるいは権利乱用として許されないものである旨主張するが、仮に原告が、被告ら主張のとおり、被告産業の実用新案権を侵害しているとしても、右侵害の事実と本件実用新案に基く本訴差止請求とは何ら関係のないことであり(別に、同被告において、原告に対し差止等を請求しうるだけのことである。)この程度のことで被告らの侵害行為が放任されるべき筋合でないことは、いうまでもないことであるから、被告の右抗弁は、全く採用に値しない。
(実施不能の主張について)
九被告は、本件実用新案が実施不能であることを前提として、本件実用新案権による差止等の請求が許されない旨主張するが、本件実用新案が実施可能であり、その実施により一定の作用効果をあげうべきものであることは前判示するところにより明らかである(乙第十四号証の一、二は、本件実用新案の効果を他と比較するに止まり、これを実施不能であるとするものではない。)から、右主張は、その前提事実を欠き、したがつて、爾余の点について判断するまでもなく、採用しうべき限りではない。
(むすび)
十叙上のとおりであるから、原告の本訴請求は、以上の理由ありとした限度で、これを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条本文、第九十三条第一項但書を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第二十九部
裁判長裁判官 三 宅 正 雄
裁判官米原克彦は退官のため、裁判官楠賢二は転補のため、いずれも署名押印することができない。
裁判長裁判官 三 宅 正 雄
第一目録
図面に示す如く硬質ビニール板の上下両端外表面に軟質ビニールテープ(4)を一体的に融着した胴体(1)の上下両端の前記軟質ビニール(4)の表面に金属製端板(2)(3)の周縁(5)を巻締めて成る罐。
第二目録
図面に示す如く硬質ビニール板の上下両端の外表面に軟質ビニールテープ(4)の下部を当て高周波スポツトにより融着しその両端を高周波ミシンにより融熱接着(6)して胴体(1)を形成し該胴体(1)の両端に水平に巻締周縁(5)を突出せる金属製端板(2)を嵌合し巻締周縁(5)にて前記ビニールテープ(4)の突出部を直角に押し曲げビニールテープ(4)と巻締周縁(5)の重合部を一緒に渦巻状に巻締めて成る罐。
第三目録
図面に示す如くU字状断面をした軟質ビニール製パツキング(1)のU字連結部(c)の外周側に膨出部(a)と窪部(b)を連成し且つU字状の両脚を硬質ビニール缶筒版(2)の周縁に内外より嵌合一体に熔着し、更に上面と底面を形成する薄金属製端版(3)の外縁を屈折(d)として上記の窪部(b)に圧嵌し膨出部(a)及び連結部(c)を包着して内周に折曲(e)として、内外より挾着締めとしたビニール罐。
第四目録
図に示す如くU字状断面をした軟質ビニール製パツキング(1)のU字連結部(c)の外周側に膨出部(a)と窪部(b)を連成し且つU字状の両脚を内側に硬質ビニール版(7)外側に軟質ビニール版(8)を重合して成る缶筒版(2)の周縁に内外より嵌合一体に熔着し、更に上面と底面を形成する薄金属製端版(3)の外縁を屈折(d)として上記の窪部(b)に圧嵌し膨出部(a)及び連結部(c)を包着して内周に折曲(e)として、内外より挾着巻締めとしたビニール缶。
第五目録
図面に示す如く軟質ビニール被覆版(1)を外表面に張合はせた硬質ビニール胴版(2)の上下端周縁から上下内周に亘つて冠着する予め成型した断面L字状の軟質ビニールパツキング(3)の内方長脚部(b)に比し短小嵌止部(a)を肉厚とし上下底版の金属端版(4)外周で内外周に沿つて包囲締着し且つ該端版(4)の末端外縁(c)を嵌止部(a)の下端部並びに被覆版(1)の表面に夫々喰込み巻締めとしたビニール缶。
第六目録
謝罪広告(省略)